ことばのない世界

ミヤタです。
とある小説を読んでいて、むかしのことを思い出しました。

吉本ばななの『N.P.』。
ちいさいころ、わずかな期間声が出なくなったというエピソードが出てきます。
声が出なくなってことばで思考することをやめたら
目にうつるものの色があざやかになった、というような。

数年前、生まれてはじめてインフルエンザにかかりました。
もともと体温が高くて、38℃ぐらいの熱ならわりと普通に動けるのですが
このときはさすがに動けなかった。なにもできず、ただ寝ていました。

ふだんは本を読んだり歩きまわったり、常に
なんらかの方法で情報を得ようとしているんだと思います。
たぶん自分で思っている以上に。

動けなくてその活動ができなくなると、まわりのせまい世界のことが
ただもう美しく目にうつる。ふだんは見過ごしているようなことまで。
思考も停止しています。だからことばのない世界。
そういう意味で小説のなかのことと同じだったのかなと。
布団のなかで天井を見上げるだけの日。
空気の温度とかたまに見る空の色がものすごく心に残る。
熱にうかされてちょっと幻想的ですらある。

わずかな期間でも声が出なくなる、というのは恐怖だと思います。
それにくらべたらインフルエンザは治ると思っていたし、
経験したことのレベルがぜんぜんちがうと思うけど
すこしわかる、と思った。

いま手にしているものが、目の前のものを見るときの
障害になってしまっているというひとつの真実。