恐竜の叫びとサイパンの夜

ミヤタです。
物語に出てくる歌の描写で、印象的なものがふたつあります。

ひとつは大崎善生の短編集『九月の四分の一』に
収録されている『悲しくて翼もなくて』。

高校生の女の子が、湖のほとりで
滅んでいく恐竜の悲しみの鳴き声を再現する場面。
心の底にある感情を声として表現することが歌なのだとしたら
恐竜の叫びはまさに歌ではないかと。
はじめて読んだとき、すごく衝撃を受けたことをおぼえています。

もうひとつは吉本ばななの『アムリタ』。
サイパンで、歌に力をもつ女性が夜の海で歌うと
霊がそれを聴きにやってくるというすこしこわい場面。
こわい場面なのに美しく、ふるえるような感動がありました。

このふたつはそれぞれレベルのちがう話であると思うし、
なんとかことばを伝えたいと思っている自分のレベルからは
さらに遠く隔たって想像もできないものであると思っています。

それでもいつも心のどこかにこれらの話が息づいていて
歌の持つ、ことばを超えた力を思い起こさせてくれます。